シックハウス症候群=CS=化学物質過敏症
シックハウス(CS=化学物質過敏症)について
仮病の口実ではないのか…といった無理解な発言もあってシックハウス症候群=化学物質過敏症は、まだまだ認識が低いようです。1970年頃からわが国でも注目されるようになったシックハウスという言葉は、オイルショックを機に欧米で換気量を落とした省エネビルが建てられ、その居住者より多数の体調不良の訴え起こり、これを「シックビルディング症候群」と称し、シックハウス症候群は、その症状がシックビルディング症候群と似ていたため、作られた和製英語です。
1950年代に当時シカゴ大学小児科教授のセロン・G・ランドルフが、その病態を提言したことが端緒とされており、その後1987年にマーク・カレンが多種化学物質過敏状態(MCS=Multiple Chemical Sensitivity)と呼ぶことを提唱し、この呼称が広く用いられてきたとされています。
シックハウスあるいはシックスクール症候群といわれているのは社会科学分野での用語で、医学的には化学物質過敏症(CS=Chemical Sensitivity)あるいは多種化学物質過敏症(MCS=Multiple Chemical Sensitivity)という呼び方が定着しています。
我が国においては、北里研究所病院の石川哲博士が1980年代半ば、有機リン殺虫剤の慢性中毒患者の後遺症として、極めて微量の有機リン殺虫剤(ビル消毒に使われたもの)に反応する患者がいること、いわゆる不定愁訴を有することに気づいたのをきっかけとして、アメリカの医師らと化学物質過敏症の科学的証明のために共同研究を続け、我が国にもその医学的な知見を紹介して広く知られるようになったとされています。その後、北里研究所病院臨床環境医学センターが設立されました。
怠け病でなく本当に辛いシックハウス
室内にはさまざまな有機化学物質のガスが拡散しています。ホルマリン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなど、あるいは防蟻剤や殺虫剤として使用されてきたクロルピリホスなどの農薬も様々なモノに紛れて室内に入ってきています。
いずれも化学物質過敏症の元凶です。
日本では、シックハウス症候群への対策として、居室を有する建築物へのクロルピリホスを含んだ建材の使用が建築基準法の改正により2003年(平成15年)から禁じられています。
化学物質症状過敏症の典型的な症状
化学物質過敏症は症状の出かたが多様ですが次のよう症状が重複して出ます。ほとんどの方はこのうちの五項目以上の症状があるようです。
頭・耳の異常 | 頭が重い、耳鳴りがする |
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目の異常 | 目が痛い、目が乾く、視覚が異常 |
ノドの異常 | のどがつまる、味覚異常 |
顔の異常 | 顔が火照る、冷汗が出る |
胸の異常 | 息苦しい、胸がつまる、肩がこる、心臓がドキドキする |
腹部の異常 | 吐き気がする、食欲がない、お腹が張る、便秘になる、下痢が止まらない |
手足などの異常 | 下半身が冷える、手先が冷たい、手足がしびれる、関節痛 |
神経の異常 | 物忘れが酷い、イライラする、思考力が低下する、不眠、腰痛がある |
そして環境が良いほうに変わるとこれらの症状が軽減したり消えたりします。
家庭内に忍び込んでいる化学物質
- カーテン難燃化剤=ヘキサクロロベンゼン、燐酸トリブチル
- エアコンの抗菌剤=グルコン酸クロルヘキシジン 防カビ剤=チアベンタゾール
- 暖房機具や台所よりの不完全燃焼ガス=ホルムアルデヒド、プロパン、イソブタン、アルデヒド類
- ファクシミリやパソコンプリンタ=トナーのスルホン酸系物質、感熱紙のポリ塩化化合物
- 掃除機用紙パック防虫剤=ペルメスリン、同防菌剤=チアベンダゾール、クロルヘキシジン、2クロロエチルホスフェート
- 床剤・ワックス=トリメチルベンゼン、塩化メチレン、デカン、キシレン
- タタミ=フェニトロチオン、粒状ナフタリン
- 断熱材=フロン、ジクロロメタン
以上は住関係ですが、このほか衣類からの影響や食べ物からの影響も受けやすく化学物質過敏症の原因物質は複雑に入り組んでいて複合的で特定は困難です。
壁面は要注意!盲点は床面!
壁面に使われる接着剤、以前はホルマリンを含んだフェノール樹脂系が主体でしたがホルマリンが騒がれて以後、ポリ酢酸ビニルエマルジョン系の接着剤が使われているようですが、やはりVOCは拡散します。壁面には神経質になる必要があります。
しかし盲点は床面です。人は床面に近いところの空気層から呼吸しています。最近では低い家具が好まれ和風でなくても床にすわるスタイルが流行しています。床面への配慮はいままで盲点となっていました。アトピーの方は部屋をフローリングしてダニの発生などに対応しています。たいていの場合は専門家の指導を受けず工務店に頼んで「フローリングにしただけ…」という場合も多く、接着剤への配慮が抜けているケースが結構あります。
またフローリング風に合板プリントしたものもあり、無垢の板でも表面に塗装しているものや樹種によってはテルペンやリモネンなどの揮発物質が発散します。ヒノキの香りが良いと健常者がいってもCSの方には苦痛かも知れません。さらにフローリングには保全上どうしてもワックスがけが必要です。これも不安材料で今のところ安心できるワックスは少なく、頻繁な雑巾がけが無難なようです。
カーペットなどの敷物からの化学物質も無視できません。畳にいたっては芯材に防ダニ薬剤を含浸させているケースも多くありタタミ表のイグサも輸入物では薬品処理がなされています。施工業者任せでなく古くからの従来技法のタタミ職人を探すのは大変ですが、やはり手作りタタミや薬剤の安全性がある防ダニたたみをお勧めします。
もう一つ、意外な盲点、電子機器
パソコンが普及し、たいていの家庭にあります。テレビが大型化しビデオやオーディオ機器もそろっています。これらの機器はプラスチックの塊です。しかもパソコンを使っている方ならお判りですがかなりの発熱です。プラスチックの樹脂成分から有機ガスが出ています。壁紙どころの騒ぎではありません。また中国で作られたものも多く、ICチップや部品を取り付ける基盤にいまだにフェノール樹脂を使っています。大型化されることで消費電力も大きく発熱量も増大します。そして加熱によりフェノール樹脂からホルムアルデヒドが発生し冷却用のファンを通して室内に拡散されます。この他に配線材やコネクターなども塩ビ製が多くこれらも発熱とともに有機ガスを拡散します。プリンタのトナーも樹脂が使われています。トナーは粉体ですので飛び散ることは避けられません。
しかも電磁波の影響についてはまだまだ未解決なことが多くWHOの見解は「影響あり」としていますが、わが国では通産省の見解が優先され「影響なし」と片付けられています。
また様々な家電製品のほとんどにプラスチックが使われています。さらにコンピュータで制御されていますのでこんなところにも…と驚くほど電子部品が使われています。プラスチックの多くはABS(アクリル・ブタジエン・スチロール)という樹脂ですが熱せられるとVOCを拡散します。さらに電子部品の配線には塩ビで覆った電線が使われ熱せられると塩化ビニルというガス状の刺激臭のある化学物質を発散しこのガスは有害です。
塩ビは塩化ビニルという気体を重合という化学的な方法で樹脂にしたもので重合を表す「ポリ」という化学用語が前について正式にはポリ塩化ビニル樹脂といいます。いわば「有害ガス」を固形化したような感じで家電製品の配線に限らず暮らしの用品のあらゆる分野に使われています。「固形」である限りは安全ですが熱せられると微量とはいえ有害ガスが発散されます。家電製品特有の臭いはこの塩化ビニルの臭いでアレルギーを持っている方は敏感に反応します。
このほか家電製品は表面塗装されたものが多く、これもプラスチックに似た高分子材料が使われます。塗料には色素の拡散剤として必ず界面活性剤が使われています。熱せられるとVOCとなって室内に広がります。家電製品を購入の際はこの辺のところも吟味し、不安材料があればお店の販売員ではなく各メーカーの「お客様相談室」にて確認してください。
住宅の数的充実から質的充実に伴い、シックハウスも台頭
日本の都市住宅は京都市及び中小都市を除いて殆どが半世紀以上前に戦禍を蒙り、灰燼の中から再建されました。その時系列的な移り変わりは以下のようになります。
I 期1960年頃まで | 居住空間が確保できれば良いとした時代 |
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II 期1990年頃まで | 高度成長期における高性能、高化粧性、多様多機能化、過剰品質 |
III 期2000年頃まで | 健康住宅・居住性追求の時代 |
IV 期2000年以降は | 自然調和・共生住宅の時代 |
このような移り変わりを経て、現在は第W期の発展充実過程と捉えることが出きます。
室内空気環境からみると、和風在来工法からパネル工法、ツーバイフォー工法へと開放型から密閉型へと移行しています。
1970年頃以前 | 在来工法木造建築 | 1.3回/毎時 |
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1990年頃 | パネル工法の住宅 | 0.5回/毎時 |
2000年頃より | 高気密性住宅 | 0.2回/毎時 |
在来工法の木造住宅における換気率は1.3回/時であったのが、パネル工法では0.5回/時となり、最近は0.2回/時と変遷し室内空気の澱みとともに空気質の問題がクローズアップされています。空気質の問題は換気率の低下とともに使用建材の移り変わりにも大きく影響されています。在来型木質住宅では木材の発するテルペン類が室内空気中に多く含まれこれはヒノキの香りなど、アレルギーとなりうる可能性はわが国では少ないと考えられていました。次いでパネル工法等の採用による建材の高効率量産化、規格化で、合板及び集成材が積極的に採用され、工程中にて接着剤が多用されるようになり、その結果OCIA(Organic Chemical in Indoor Air=有機化学物質汚染室内空気)が問題化してきました。
化学物質過敏症の原因は、ホルムアルデヒド。近年では室内用消臭剤や殺虫剤も。
OCIAの主体はホルムアルデヒドをはじめとしたVOC(Volatile Organic Compounds=揮発性有機化合物)です。
安価なため建材の接着剤や塗料、防腐剤などに広く用いられています。SDS=化学物質等安全データシートによるとホルムアルデヒドは年間1,350トンも排出され、一人頭にすると約10グラムとなります。
WHOの安全基準値をわが国も採用していますが、その基準が1立方m当たり0.07ppmであることを考えると単位基準の相違はあるもののかなりの濃密接触です。わずか5ppmで30分以上の滞留に耐えられないといわれ20ppmでは、気管支びらんなどを引き起こし生命に危険があるとされています。
接着剤メーカーではホルムアルデヒドフリーの接着剤を開発していますが、経済効率を考えるとやはりホルムアルデヒド系接着剤が大きく流通しています。また国内基準が厳しくてもマレーシアなどからの合板の輸入が圧倒的に多量で問題となっています。
化学物質過敏症を回避するために
いったん化学物質過敏症になると、堰を切ったように次から次へとあらゆる化学物質に反応し、ついにはフルフェイスのヘルメットのようなものですっぽりと顔を覆ってしまったり、宇宙服のようなものが必要になるといわれています。しかし危険因子を引き算してゆけば化学物質過敏症は避けることができます。アトピーとCSは表裏一体です。いつ何時CSに移行するかも知れません。予防が肝心です。暮らしの中のちょっとした心がけで切り抜けてください。
住まいの中で
- 家の内外にある化学物質について一つ一つ吟味してゆく態度が必要。
- 換気は自然換気、強制動力換気ともに意識的に回数を増やして行う。
- 除湿を心がけカビの発生を抑え、ダニも発生を防ぐ工夫をする。
- 衣服や寝具、家具や調度品など意識的に天然素材のものを使うようにする。
- 塩化ビニルをはじめ塩素系プラスチックの家庭内持ちこみを極力排除する。
- 合成洗剤や柔軟剤の使用をできるだけ控え、肌に触れるものは石けんに切り替える。
- 家屋内や庭で殺虫剤や除草剤は使わない。防虫剤やベープ等の使用も控える。
- 消臭剤や芳香剤の使用は避ける。また衣類用防虫剤の使用も控える。
- 空気清浄機を使い、また随所に木炭や竹炭を置く。
飲食に関して
- ファストフードやジャンクフーズからスローフーズに切りかえる。
- 沿岸産の魚介類は毎日摂取しないようにし、沖合いの産地にこだわる。
- 野菜などはできるだけ地元産のものを摂取し旬のものを食べる。
- 飲用水に配慮し浄水器により濾過した水を飲用する。
- 食物をラップに包んだりプラスチック容器に保存することを極力避ける。また出来るだけ食べ残さない。
- レトルトパッケージの食材やレンジによる加熱食材、缶詰なども出来るだけ避ける。
その他
- 近くに高圧電線がある場合は鉄材などに誘導電流が生ずる可能性が高い。
- 入浴を奨励し、また低温サウナ浴を行ない発汗による新陳代謝促進を図る。
- 防菌抗菌加工は一時しのぎなので家庭内から排除する。
- 手軽にカビが消えるのは強力な薬剤を使っているからでこれも排除する。
- 歯磨きは界面活性剤を使っていないものを使う。
- 毛染め剤の使用は止める。また化粧品や保湿クリームなどの香料も注意する。
- 新しい皮靴やかばん、塩ビ製品などは使用を避けるか、しっかり揮発したものを使用する。
- 書籍やカタログ、新聞などの印刷物にも注意する。
新築改築の際には
- 建材は、F☆☆☆☆(フォースター)を選択。
- 出来るだけ無垢材を使用する。但しJAS規格で認定されていない「無等級材」という木材も流通している。
- 無垢材は「調湿効果」により、反ったり隙間が空くなどの問題点も。また流通量は輸入材が圧倒的で防腐・防蟻剤加工されていることも。
- 壁紙使用を少なくし珪藻土やホタテ貝殻微粉末、漆喰などの左官材を使う。
- 壁紙を使用する場合は、インテリア材料に関する自主規格のISMマークのものを選ぶ。
- 接着剤はエマルジョン系のものを選ぶ。
- 日本接着剤工業会では施工が終了してから2週間程度の換気期間を置いて入居することを奨励している。
- 塗料もトルエン、キシレンの有機溶剤の少ないエマルジョン系の水性塗料を使用し、塗装後は相当の乾燥期間をおいて入居する。
- シロアリ対策に薬品(例=クロルピリホス)を使わず木炭竹炭粉などを使う。
- 酸化チタン皮膜で被覆した蛍光灯などを採用し少しでもVOCの逓減を図る。
家庭内における化学物質発散の可能性のあるアイテム
建材など | ホルムアルデヒド、トルエン、キシレンなどのVOC |
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カーテン難燃化剤 | ヘキサクロロベンゼン、燐酸トリブチル |
エアコンの抗菌剤 | グルコン酸クロルヘキシジン |
防カビ剤 | チアベンタゾール |
不完全燃焼ガス | ホルムアルデヒド、プロパン、イソブタン、アルデヒド類 |
事務・電子機器 | トナーのスルホン酸系物質、感熱紙のポリ塩化化合物 |
掃除機用紙パック | チアベンダゾール、クロルヘキシジン、2クロロエチルホスフェート |
床剤・ワックス | トリメチルベンゼン、塩化メチレン、デカン、キシレン |
タタミ | フェニトロチオン、粒状ナフタリン、フロン、ジクロロメタン |
ホルムアルデヒドなどのVOC(揮発性有機物質)
◇主な揮発性有機化合物(VOC) | |
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■ホルムアルデヒド | 指針値0.06ppm |
アルデヒドケトン化合物 | 分子量30.03 |
家具全般、カーペット、合板、壁紙、シャンプー、香料 | |
■トルエン | 許容量0.07ppm |
芳香族化合物 | 分子量92 |
塗料面、塗料材料、多目的接着剤、カーワックス、ガソリン | |
■キシレン | 指針値0.20ppm |
芳香族化合物 | 分子量106 |
ペイント油性塗料、ラッカー油性塗料、油性ニス、木材防腐剤 多目的接着剤、ワックス |
|
■パラジクロロベンゼン | 指針値0.04ppm |
含ハロゲン化合物 | 分子量147 |
多目的接着剤、塗料 | |
■エチルベンゼン | 指針値0.88ppm |
芳香族化合物 | 分子量106 |
ラッカー油性塗料、ラッカー薄液 | |
■スチレン | 指針値0.05ppm |
芳香族化合物 | 分子量104.1 |
断熱材、建材 | |
■クロルピリホス | 指針値0.8ppb |
有機リン化合物 | |
防蟻剤、農薬 | |
■ジブチルフタレート | 指針値0.02ppm |
多目的接着剤、塗料 | |
クロルピリホスの指針値の単位ppbはppmの千分の1を示します。 |